Madness/Divine

Madness/Divine

 オリジナルから20年以上も経過し、なおも我々の胸を打つ無敵のビートが存在する。あの踊り、チープなサックス、ふざけた7人のスーツ男。Madnessである。今月はそんなおどけたスカ集団を切り口に、スカのリズムやその心得がいかに現代の音楽シーンに影響を与えたかを考えてみたいと思う。
 Madnessとは軽快なビート、変則リズム、胸を打つベタベタなそして暖かいメロディーを持つバンドである。1970年台後半、イギリスは一連のパンク時代を経験し、あの粗悪な音と暴動に飽き飽きしていた。正確にはSex Pistorsだけでイギリスはおろか世界が満腹状態であったのだ。しかし、パンクの残党は燻りながらも自分達を満足させてくれる音楽を求めていた。彼らの望みはただ退屈な日常、絶望的な日々の暮らしを忘れさせてくれるシーンの到来であった。しかし、状況はいぜんとして悪く、刹那的な喜びへと目が向けられるようになる。そうして彼らは暴れることに見切りをつけ、踊ることに専念し始めた。これが80年代に見られるスカとエレクトロニカの2大政党時代の到来である。両者に共通するのは、共に原点をパンクとしていた事であり、またその最終的な目的が現実を忘れる事であったという点である。独断と偏見に満ちているが、おそらくこれら2つの全く異なる方向性を最初に体現したのは、前者で言えばThe ClashのLondon Callingであり、後者ではJoy Division〜初期のNew Orderの作品群であろう。
 そこで今回の主役Madness。彼らはThe SpecialsやThe Slectarと同様にパンクとスカを融合させることを試みたバンドである。しかし、その一派の中でも彼らの魅了を一層引き出したのは、彼らの持つ圧倒的なポップネスである。The Specialsなどが不協和音などによる独特の暗さを持っていたのに対してMadnessはポップである事を常に至上命題としていた節があり、それは文句なしに"楽しい"パフォーマンスによって徹底的に貫き通されていた。日本で言えばホンダ「シティ」のCMに出ていた"ムカデダンス"といった方が分かりやすいだろう。
 また、「もの凄く切ない歌詞を底抜けに楽しく歌う」という手法を確立したのも彼らではないかと私は思う。代表曲It Must Be Love,My Girl等、泣きたくなるようなことを笑い飛ばすという行為をはじめにやってのけたのは、やはり彼ら以外に思いつかない。ただ、ここで考えて貰いたいのは、現在ではこの手法がもはやリスナーにアピールする為の常套手段となっている点である。
 以上、非常に長い解説になったが、ここで少しでも興味を持った方は是非ともこのDivineというアルバムを聞いてもらいたい。ここには彼らの歴代シングルが詰まっており、そのどれもが当時イギリスで大ヒットしたものばかりである。見た目は本当にバカだが、彼らはそのバカを確信犯的に演じている。幸いこの夏頃に当CDは再発版として1500円で販売されているので、是非とも手に入れて孫の代まで家宝にして貰いたい。